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Erbarme dich
ゴールデンウィークの本番で、バッハのマタイ受難曲のアリア、<憐れみたまえ、わが神 Erbarme dich, mein Gott>
を歌いました。

この曲はマタイの中でも有名ですし、もっとも美しいアリアとして知られています。

しかし、今回歌ってみて、この曲は全く違う歌と思わされました。誤解を招く言い方ですが、おどろおどろしいというほうがよいかもしれません。

言わずもがな、イエスの一番弟子だった、ペテロが鶏が3回泣く前に3度、師であるイエスを否認し、そして鶏が3度泣いたとき、イエスが事前にペテロに鶏が3度泣く前に私を知らないというだろう、と言っていたことを思い出して、激しく泣いた場面の後で、このアルトのアリアが始まります。


憐れみたまえ、わが神。
私の涙のゆえに。

ここを見て。私の心も
まなざしも、あなたの前で、
激しく泣いています。

Erbarme dich, mein Gott
Um meiner Zaehren.

Schaue hier,
Herz und Auge
Weint vor dir bitterlich.

3年半もの間、人間をとる漁師にしてあげようという師の言葉に、漁師であるペテロは網を投げ捨てて、何もかも捨ててついてきたのに。どこへ行こうとあなたのためなら、死ぬ覚悟はできていますと、自信を持って言っていたのに。実際、この言葉をイエスに言ったときに、「あなたは鶏が3度泣く前に私を知らないと言う」と宣告を受けたのですが。それでも、なお、「一緒に死ななければならないとしても、私は、あなたを知らないなどとは決して申しません」と言い切っていたのに。

人間の正義はこんなにももろく崩れやすい。

今回のコンサートでこのアリアを歌う前が、ドイツ人宣教師のベックさんのショートメッセージがあり、この箇所を取り上げていたわけではないのですが、このペテロの否認に通じる、人間の弱さ、正義のもろさ、愚かさ、駄目さ加減が思い起こされるお話をされました。

そして、この歌を歌ったとき、歌い始めの6度への上向 Er--ba---rme di----ch.(Er から bar に上がるところが一点Fisから二点Dまで、6度もあります)が、心の奥底から、神へ憐れみを乞う腕を伸ばすような、思いがしました。
ずっとこの erbarme dich が繰り返されますが、ペテロが経験したような自己破産のぼろぼろの心から、憐れみと訴え、が悲しみの感情とともに噴き出してきます。ヴァイオリンのオブリガートの下降型は、まるで涙がほろほろ流れるよう。

bitterlich weinen は激しく、苦く、泣く。ということ。後悔と自責の念。吐きたくなるような真っ黒な自分の心。その意味でも、美しいアリアではないのです。

ベックさんのお話を聞いたとき、このアリアの導入にあまりにもぴったりで、心が動かされて、冷静に歌えるかちょっと不安にもなりました。でもこのアリアの前座(!)のようなお話で、このアリアの本質が分かった気がしました。

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テーマ : クラシック - ジャンル : 音楽

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